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序文

 金子直吉翁が亡くなってから五年、柳田富士松翁が去ってから二十一年。みじめな敗戦後日本再建途上の困難を味わうにつけ、ありし日の鈴木商店とその二大柱石だった両翁に対する追慕の情はいよいよ切なるものがある。この時にあたり両翁頌徳会の一事業である金子直吉伝上巻と柳田富士松伝下巻の脱稿を見るに至ったことはまことに欣懐に堪えない。
 本書の編纂執筆に当たられた白石友治氏は金子翁の祖先金子家発祥の地伊予金子村の出身で、かつて金子備後守の史伝をものされて江湖に問われたことがある。かかる由縁のある同氏が今回的確詳細に事実を調査しかつ関係各方面から得た山なす両翁の資料により真の姿を彷彿させることに苦心が払われたため、微に入り細を穿って偉人金子翁の面目躍如たるものがある。また商傑柳田翁の事跡についてもよく正確平明に叙述されており興味深く描写して余すところがない。けだし両翁伝記編纂執筆者として最適任であり、かつ伝記発刊の目的を十二分に達成し得たものと信ずる。
 この伝記上下両巻を旧鈴木関係の方々に頒布するにあたり今更のごとく、その偉大を敬仰するとともに地下の故人を迎えて再び過去を追想し吾人の指導者たらしめ、新日本再興に寄与するところあらんとするものであって、意義まことに深重であると思う。
 最後に我ら二大恩人である両翁に格別親炙した有志の方々から寄せられた追想文を巻末に載せ得たことは錦上さらに一段の花を添えたものである。また各方面から貴著な資料を頂戴したことに対してあわせてここに感謝の意を表する。
 本会発起人の一人としてこの伝記の原稿を通覧する機会を得たので僭越ながら拙文を草し敢えて序文とする次第である。

昭和二十四年二月十一日

金子柳田両翁頌徳会 発起人 高畑誠一