金子翁は、無欲であると同時にどこへ行く時でも金を持っていないことで評判である。付き添いの者に金を委ね、料理屋へ行っても秘書や運転手が会計する。それでも財布は持っている。ある時、某雑誌の社長に森寅重という人が翁を訪問すると珍しく財布をいじっていたので、森は「金子さん、良い財布ですね、僕のと取り替えましょうか」という。翁は「中身ぐるみなら取り替えよう」という。森はそれは賛成と直に取り替えて互いに中身を改めて見た。すると、翁の財布には二円八十銭あり、森の財布には五円入っていた。森は驚いたが、翁は大いに笑って言った。「これは儲かった」と。